謡曲『櫻川』

地元の伝統芸能を体験

室町時代以降盛んになった「能」という伝統文化は,日本のオペラともいわれ,数々の物語を有しています。作品は「曲」と呼ばれ,西洋のオペラと違うのは,最小限の楽器で物語を表すことです。その楽器とは,笛・太鼓・大鼓・小鼓で,さらに,それらの楽器を省き「謡い(うたい)」という人の声だけの音曲で物語ることもあります。

「復興いばらき県民まつり2012」笠間にて
▲復興いばらき県民まつり
2012 笠間にて

平成24年度の図書館教養講座は「桜川市に伝わる謡曲『櫻川』を体験することで,郷土愛を育む。また,伝統文化に親しむことによって,うるおいのある人生を送る生涯学習の基礎を育む。」という目的で始まりました。岩瀬高校がある桜川市は「西の吉野,東の桜川」と呼ばれる桜の名所です。室町時代の世阿弥によって作られた謡曲『櫻川』は,世阿弥晩年の作で,完成度も高く,内容も母と子の愛情に満ちた物語です。能の愛好者からも好まれる演目で,そのため,この地に憧れ、訪れる方も多く,文学散歩の能楽体験教室でたまたまお会いした方から感極まって話しかけられもしました。

この伝統芸能を是非岩瀬高校でも取り入れたい!そんな思いを地元の「磯部観世会」の方々に受け止めて頂き,菱沼郁雄先生,山田宗平先生のご指導を受けることができました。6月から始まったお稽古は,毎週火曜日,新樹館2階で行われています。初めて「謡い」を倣ったときは耳慣れない音階にとまどいました。そして,腹から声を出すことから遠い毎日なのだと実感しました。また,「能」の動きは,江戸時代以前の武士の仕草でもあり,やはり下腹部(臍下丹田)に力を入れ、姿勢を正します。扇の開閉にも苦労しながら、踏み出す一歩でさえ意識する貴重な体験になっています。11月の新樹祭で全校生徒の前で発表し,その2日後には、笠間市で行われた「復興いばらき県民まつり2012」に桜川市代表として出演しました。6月1日の50周年記念式典では,その「謡い」と,シテと呼ばれる主人公一人が舞う「仕舞(しまい)」の舞台をご覧いただきました。

あらすじ
(高峯山)
▲桜川の山桜
(高峯山)

九州日向国(現在の宮崎県)に住む桜子(男児)は,貧しい家計を助けようと人買いに身を売り、使いの者にそのお金を母親に届けることを頼み,自分は母に別れを告げることなく故郷を後にする。金銭を届けられた母は,必死に我が子を探し歩く。そして,とうとうこの常陸の国(現在の茨城県)桜川に,「桜」という名前に引かれてたどり着くのである。時は山桜が満開の季節。我が子を思う母親は,桜子への思いを口にしながら,雲のような,雪のような桜の花々を眺め,また,桜川に散っては花筏となって流れてゆく花びらを,まるで我が子に対するかのようにせき止めては網ですくう。しかし,もちろん我が子ではない。落胆し網を裏返し,その花びらを捨てる。

その様子を見て,九州の者だと気づいた磯部寺(磯部稲村神社の前身か,と言われている)に来ていた僧が,伴っていた桜子を見せ,再会した親子は共に立ち去るのであった。


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